ハンググライダーってご存知だろうか?
三角形のウイングの下にぶら下がって空を飛ぶやつだ。
もう、30年も前になるが、これにハマっていたことがある。秋口に二週間も会社を休み、日本選手権まで参加していた。(結果はさんざんだったけど)
競技種目は日によって違う。例えば、20km先の山のてっぺんにある小屋の写真を撮って、指定した着陸上に降りる、などだ。(今ではGPSを使うが・・)。その距離を飛ぶためには上昇気流をうまく捕まえ高度2000mとかを稼がなくてはならない。そこで腕の差が出る。自分みたいなヘタは散々苦労して2時間かけて戻ってくる。ときには上がりそこねてそのへんの田んぼに不時着したりする。空を見上げると、うまい奴らがゆうゆうと雲の下を横切ってゆく。こっちは機体を汗だくでばらして担いでいかねばならない。罰ゲームみたいなものだ。
ああ、あそこで左に旋回していれば、などと自分の愚かさを呪いながら30kgのグライダーを担ぐ。
ところで、スカイスポーツの恐ろしいところは、一瞬の判断の間違いが大怪我に直結してしまうのだ。
リスクはだいたい離陸と着陸時に起きる。狭いエリアにおろそうとして電線に引っかかりもんどり打って落っこちる。あるいは離陸時に気を取られて風に煽られ山に突っ込んでしまう。
ちょっとした判断の過ちや集中力の欠如が致命的なトラブルになる。
そして、睡眠不足など、頭脳が疲れている、などの要因が判断の質を下げてしまうのだ。
更に、重要なのは、経験の量なのだ。
今回、「先にしくじる」を書いているにあたって、気がついた。これらは、まさしく「プレモータム」の発案者であるゲーリークラインが著書「ソース オブ パワー」で表したことと思い当たった。消防士、兵士、そして医者のなかで、優れた判断を瞬間的にできる人たちがいる。
彼らは、蓄積された経験を瞬間的に応用しているのだという。それは時として、「虫の知らせ」のような超能力的な力が降りてきたと取られたりする。
けれども、実際には、似たような経験値が、瞬間的に正しい判断をサポートしてくれているようなのだ。
ハンググライダーのようなスポーツでも、滞空時間が長い(飛行経験が豊富ということ)ほど、優れたパイロットであることは良く知られている。
人間、年を経ても、蓄積されるものはあるんだな、と妙に納得した。