「すべてがうまくいく」「〇〇理論」さらには「☓☓思考法」など、様々なタイトルのビジネス書が書店の棚を埋めている。

手にとって見る。なるほど、元気が出てくる。駄目な俺でも明日からうまく世の中を渡っていけそうだ。そんな高揚した気分になる。

そこでふと思う。誰がうまく行くなんて保証してるんだい?その証明は?どんな実験をしたのか?

多くのビジネス書は自分の経験に基づいて書かれている。だから、文章の終わりには、自分の体験談で「うまく行った」、この仕事の仕組みは「こうなっているのです」という断定で結ばれている。

一方、多くの学術論文がある。素晴らしい理論と実験、実証、そのために必要なメソッド、統計学、数学的な証明、その深さはまさに底が見えない井戸のようだ。とても理解しきれるものでない。

そこで知り合いの編集者に相談した。

「ビジネス書って、研究者からすると、ご都合主義に見えないですか?」

「アカデミズムは特別の領域では素晴らしい。しかし、現実の複雑なビジネスを解決してくれるものではない。そこを深い経験で明らかにするのがビジネス書だ」

なるほど。まさに目からウロコだ。なんだか後ろめたい気分がしながらパソコンを叩いていた(売れないビジネス書作家である)自分にとってまさに福音だ。

そこでさらに、思った。

「複雑多岐に及ぶ現実のビジネスと宇宙の星の数ほどある仕事の悩み、これと人類がわかりかけている科学を橋渡しするようなビジネス書があれば、もう少し多くの読者を苦悩を解決できる可能性が高まってくるのではないだろうか?」

残念ながら自分の能力ではすべての実証分析はできない。おそらく、誰かの助けが必要だろう。しかし、あくまでも積み重ねたビジネスの経験を土台に組み立てよう。そして、少しでも得られた知見が普遍的なものに近づいてゆくように、実証された結果をできる限り参照し、ビジネスでうまく行ったケースを、単なるラッキーや思い込みでないように、鍛え直してゆきたい。

そう思う。