では、「プレモータム・シンキング」とは一体どのような思考法なのだろうか?
一言で言うと、計画を成功へ導く革新的なプロジェクトマネージの思考法である。では、どこが新しいのか?
大きく二つの違いがある。
一つ目は、今までのプロジェクト管理で起きるような想定外や抜け漏れを減らせること。
二つ目はプロジェクトに関する関係者の感情的な圧力を減らすことができることである。

何故か?
通常のプロジェクト管理の場合、未来にゴールを設定する。そこに向かって現在から未来へ時間の流れに従って計画してゆく。この場合、人間のもつバイアスにより楽観的なプランになりやすく、抜け漏れも発生する。
さらに、一度プロジェクトが始まってしまうと関係者の心情的な圧力で修正は難しい。
一方、プレモータム・シンキングは未来にゴールを設定することは同じだ。
しかし、まずそのゴールが失敗したと仮定する。そして、失敗した未来から現在へ時間の流れを遡りながら失敗の原因を明らかにする。
すると、悲観的見方による特性によって、人はより細かに状況を想定できるようになる。さらに、プロジェクトが始まる前にプレモータム・シンキングを実施することで、感情的バイアスから逃れることができるのだ。

ただし、間違わないでいただきたい。プレモータム・シンキングは単純な悲観的な見立てではない。最悪のケースを想定する思考法の場合、計画そのものを縮小してしまう。

プレモータム・シンキングは行動経済学の知見に基づいた、ゴールに高い成功率で到達するための手法である。

事業を始める、イノベーションを起こす、逆境に立ち向かう、などはもちろんポジティブな心であるべきだ。問題はそのような素晴らしい精神状態でも、プロジェクトや仕事は失敗してしまう、という事実なのである。(注)

プレモータム・シンキングは、ここに注目し、成功率を高めるための思考方法なのである。



注:過度のポシティブシンキングは目標を到達するエネルギーを奪うことも明らかになっている〜ニューヨーク大学 Gabriele Oettingen教授の調査による