それから一年半が経った。スタート時には、テッドが自分の本来の会社と、この新しいベンチャーの社長を兼任し、社員はエンジニア主体の体制で船出した。すぐに、手が回らなくなった。考えてみれば当たり前だ。テッドは既に会社を三つ持っている。おまけにベンチャービジネスはとにかく手間がかかる。そこで、投資会社も会社らしい体裁を整え、ビジネスを軌道に載せるようと考えた。そのために組織をいくつか変更した。新社長には投資会社が指名した伊達社長が着任した。この人物、金融系出身、アメリカで事業を展開していたと言う。会ってみると、テッドと違い、強引さには欠けるが、道理のわきまえた、人当たりの柔らかいスマートな人に思えた。英語も堪能だ。彼なら安心だ、と仲間でうなずきあったものだ。
また、社内も大きく三つの事業部に別れた。音楽系のソフトウェアを開発するサムのチーム、ゴンちゃんのビジネスマン向けのコミュニケーションサイトを運営する組織。そして自分が担当する携帯向けアプリやゲーム、さらには人材紹介会社向けの業務システムを管轄するグループだ。
そして、伊達社長、ゴンちゃん、サム、自分で定期的に打ち合わせを行って会社を運営することになった。
当たり前のことだが、船出したばかりのベンチャーは最初収入が入ってこない。しばらくの間は資本家から集めた現預金で人件費やオフィスの賃貸料、様々なコストをまかなっていく。一方、会社の費用とは実は恐ろしいくらいにかかる。例えば、従業員を雇う場合、その給与と別に社会保険費用などで、給与の倍以上の金額が必要になる。それにオフィスの不動産賃貸料。光熱費、インターネット関連のベンチャーであれば、コンピュータ、サーバー、これらを動かす電気代やインターネット回線費用、メンテナンスコスト。これだけでない。人事や経理をアウトソースに頼っていたのでその月額コストも必要だ。これらを合わせると軽く毎月数百万円になるのだ。一方、毎月数百万円の利益(収入では、ない)を稼ぐことはとてつもなく大変な作業だ。サラリーマンだった自分はあまり実感していなかった。(きっとほかのメンバーも似たようなものだっただろう)。そして、現金はでかい穴の開いたバケツのような勢いで銀行口座から消えて行った。
この日も朝の定例会議を行っていた。サムは所用で欠席していた。
(次のブログへ続く)
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