ここで収入の状況を説明しておいた方が良いだろう。
音楽系アプリ開発に特化しているサムのチームはヤマハから開発の請負も行い、自分たちのチームの食い扶持くらいは稼いでいた。
一方、自分のチームはNTT-Xなどと提携し、「モンスターメーカー」というゲームアプリをドコモの公式メニューに掲載していた。その他、企業からJAVAベースのサーバーシステムを受託開発したり、細かな案件の請負をしたり、なんとか食いつなごうとしていた。しかし、ゲームアプリはせいぜい月二十数万円しか入ってこない。
プロデューサのケンさんは懸命に数字をあげようと頑張っていた。ゲーム雑誌に記事を掲載したり、こまめにメールプロモーションを行ったり、でも、ユーザはなかなか増えない。数万を超える単位のユーザを抱えるサイトは着メロ、ニュース、占い、などに限られていた。一方、大手玩具メーカーなどもゲームに参入し、ジャンクゲームを大量に投入し初めていた。
そう、私たちのように給与の高いJAVAエンジニアを三十名も抱え、賃料の高い南青山にオフィスを持つ場合は、生き延びてゆくためにはどれだけの収入が入ってこなければいけないのだろう?
もちろん、会社運営のための詳細なビジネスプラン、ファイナンシャルアナリシス、キャッシュフロー計画はあった。しかし、それも投資がなされた最初の段階に作られたあまりに楽観的なプランだった。会社を運営するためにはこれらは常に経営者によって厳密にモニターされ、アップデートされ、必要なら会社自身が素早く変わっていかなければならない。いや、それ以上にこれだけの所帯を養ってゆくためには、実際に収入を定期的に生み出す具体的かつ、現実のものとなるコアビジネスやその仕組みがなければならない。そして、この基礎となるビジネスを現実のものとするためには、基軸となる実際に現金を生み出す製品やサービスが必要だ。そして全員が一枚岩で同じ方向を見て全力で取り組む、ということが何よりもベンチャーでは必要だったのだ。
残念ながら、私達はどれもなかった。
三つのグループに会社の中は割れていた。
それぞれのチームは、いくつかのサービスを作り出したが、どれもヒットには程遠い。毎週商談の状況もフォローしていたが、どの案件もクロージングまで何ヶ月もかかる。そして、その何ヶ月後には、さらに交渉や提案が必要になってしまう。つまり契約に至らない。時間ばかり経ってゆく。
なんとか受注に漕ぎ着けても、入金はさらに先だ。おまけに、その案件を実現するために多くのエンジニアと開発時間もかかる。明らかに赤字なのだ。
でも、始めてしまったからにはもう止められない。他に現金収入のあてもない。働いても、働いても、儲からないというデススパイラスに入っていた。
コメント
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。