ジャリン ジャリンと金属音がする。フと目を上げると、開け放した入り口を通り過ぎる一団が見えた。先頭の太った警官のあとに両手両足をでかい鎖でつながれたラテン系の髭面男が引っ張られてゆく。うわあ、極悪人だ?思わず顔を伏せて目を合わさないようにした。まさかロサンゼルスの連邦裁判所の待合室でこんな人たちに会うなんて思っても見なかった。
ここは、ちょっと国会議事堂なような階段の上に立つパルテノン神殿風の立派な建物の中の待合室だ。
あのモンスーンカフェの別れから六年が経っていた。ベンチャー企業の副社長として失敗し、逃げるようにIT企業に転職した。更に色々な経緯があってここロサンゼルスに居を移すことになった。ポジションはインターネット関連ソフトウェア製品のプロダクトマネージャーだ。
なんとか日々悪戦苦闘しながらも、アメリカ人の中で一企業のビジネスマンとして、仕事を無事にこなしていると言う自負を持てるようになってきていた。ところが、思いもかけない出来事が起きた。以前、自分が担当していた製品に、あるベンチャーの技術を採用していた事があった。その会社、使用権契約について突然訴えてきたのだ。どうやら、資金繰りが悪化し、自社の技術を使っている会社からどうにかして資金を引き出そうと、あちこち訴えまくっているようだ。そしてその裁判の流れの中で、証人の一人として、自分が呼び出されたようなのである。
ここ数日、顧問弁護士から「ああ言え」「こう話したらダメ、分からない事はそうとはっきりすること」等々のレクチャーを受けていた。そして今日、本番を迎えたわけだった