smile 14法廷は天井が高く、まるで映画みたいだった。壁に巨大な液晶TVがいくつも下がっているところが珍しい。
声がかかり、裁判官の隣のボックスに導かれた。右手を上げて、宣誓をする。 すぐにベストまできっちり着込んだ、スーツ姿の相手方の弁護士がいろいろ喋りだした。時々質問をする。想定通り答える。特に迷うようなこともない、

そして約十分後、「最後の質問なんですがぁ、メールは毎日読むのですよね、ええと、x月x日もですよね」と相手の弁護士が何気ない調子で聞いてきた。
思わず、「はい」と答える。するとその弁護士は「にやっ」と笑って、終わります。と座った。

あれ、これって何かヤバい?

法廷から出て、顧問弁護士に、自分、まずったんですか?と聞いたら、「いやあ、大丈夫です。大したことじゃあない」と言ってくれた。ちょっと複雑。

裁判所の階段を降りながら、真っ青な空が目に刺さる。大通りの向こうにある駐車場の金網にとぼとぼ向かう途中、頭をよぎったのは証人喚問をうまくこなせたのかなあ、というより、訴えてきたベンチャーのジェイソンの事だった。
相手の会社の担当で、昼食を挟んで話したこともある。自分もベンチャーにいたんだよ、というと、そうかあ、大変だけど面白いよね。僕は自分たちのテクノロジーを信じてるんだ、とにこやかに笑って言っていた。
彼らは、パテントもあり、技術も優れ、製品も立派にあった。自分の聞く限りは資金もそこそこあったようだ。そして、件のジェイソンにしても、会社の進む方向をはっきり知っているようであった。それ以上に、いいやつだった。少なくとも訴えるような事をする輩には見えなかった。自分がナイーブ過ぎたかもしれない。 でも、今、彼は切れかかったタイトロープにしがみつき、断末魔の叫びを上げているのだ。

「訴えたって勝ち目があるとは思えないのに・・そんなら他に頑張れる事があるのじゃないか?ジェイソン?」 

モンスーンカフェの最後のコーヒーが目の前にまざまざと浮かんで来た。あの時、自分のビジネスリーダーとしての器のなさを嘆いた。 「どうして、皆は同じ方向を向けなかったのだろう、ビジネスプランやキャッシュフロー、などをきちんと見ていなかったのだろう?」と。 ところが、ジェイソンの会社は全てを備えていたように思える。しかし、彼も失敗した。 ここまで考えて、ふと頭をよぎったことがある。「もしかしたら、ビジネスがうまくいくか、潰れるかの分岐点は卓越したリーダーシップや精緻なビジネスプランやなどと違うところにあるのではないだろうか?」疑問符が再び頭を駆け巡っていた