プレモータムはこれに対して、例えば、船で航海しようとする時、まだ港で荷物を積む前にこの旅が失敗してしまったと仮定して議論するのだ。ちょうどタイムマシンで未来に時間旅行をしたと考えればよい。そして、失敗した自分たちの姿を目の当たりにし、どうしてそのような事態になったかを検討し、対策に結びつけるのだ。

こう聞くと、「なんとなく話はわかるが、本当に役に立つのかい?」「失敗を最初からイメージするなんて非常識だ、逆にネガティブなことばかり考えていると悪い方向に向かってしまう、いや、そもそも心の毒じゃないか?」と思われるかもしれない。

しかし、これは、アメリカではすでに実績のあるリスク管理の方法の一つである。前述のゲーリー・クラインはアメリカ空軍に招かれ、この手法を行っている。リスク管理の観点で言えば、生き死に直結する軍隊では特に有効であろう。(プレモータムのモータムという言葉がそもそも「死」を意味する)それも、失敗をイメージすることで成功を導くという逆説的だが、効果的な方法であり、実際に結果を出している。
前述のカーネ
マン教授が記したように、この方法は失敗から評価することで「計画の錯誤」や「コンコルド効果」から逃れることができるのである。 (尚、自分もこの手法を新製品のリリースに応用し、二年間で業界二位のシェアを抑えることが出来た。それも残業はほとんどしていない。)  
コンコルド効果とは、人がある対象へ何らかの投資(金銭的なものに関わらず、人的リソースや、心理的な努力なども含む)を行なった場合、その後、その行為を継続することが明らかに損失になるとわかっていても、投資がやめられない心理状態を表すものである。これは、かつて超音速旅客機コンコルドが莫大な開発費をかけて開発され、商業的には失敗であったにもかかわらず事業をやめることができなかった事から由来する。結局、コンコルドは悲劇的な墜落事故を待たないと事業を終了することができなかった。

今回、自分はこの知見を元に、日本人向けに独自に考え方を拡張してみた。それが「プレモータム・シンキング」である。例えば、日本人は悲観的な傾向が強いと言われる。その為「プレモータム」のような考え方は馴染みやすい。 ところが、日本人は慎重で仕事は確実だがアウトプットを出すまでが遅い。一方、欧米では、最初のアウトプットでは完璧性より、タイムリーに結果を出すことを重視される。これはどのタイプが良い悪いということではく、それぞれの傾向がふさわしい場面が各々存在するので、使い分けるべきなのだ。